銀の風

一章・新たなる危機の幕開け
―9話・蛇を探しにはるか北へ―



まさか、あの少女の一言が一行をここまで遠征させるとは。
遠くにそびえる、雪をかぶった灰色の岩肌をさらす山。
そして、丈の高い草で覆われた平原と遙か彼方に見える海。
何を隠そう、ここはファブールとダムシアンの間の土地である。
ではここはどの国にも属していないのかというと、そうではないが。
こんな開けた土地が、どの国の領土でもないなどありえないといっても過言ではない。
ちなみに、今回フィアスはバロン城で留守番である。
「この辺りは、シエノルって言う公国なんだってさ。
ダムシアンの王様に仕えてる、公爵らしいけど」
シエノル公国とは、ギルバートの王家から公爵の位を授けられたパーディルト・シエノルが治める地だ。
かの公爵は現在34歳。元々は、ダムシアンに定住する大商人の一人だった。
また、ここはホブス山に近いため、気候が冷涼だ。
そのため、本国では育たないものもたくさん育つと言う。
「ふ〜ん。ところでよ、この辺近くにオメーの村あるってマジか?」
「ん、そうだけど。あー・・ここからじゃだめ。
もうちょっと行かないと、あたしの村がある森は見えないみたい。」
アルテマの村は、わりと開けた明るい森にある。
あまり大きくはないが、そこそこの大きさの山に接している
ちなみに、今一行がいる草原は、リトラの胸辺りまで草が生い茂っている。
そのため、相当に歩きずらい。
「うっぜー・・χ」
「リトラはん、間違うてもあっちの高い草に突っ込まんようにするんやで。」
少しばかり心配そうに、リュフタが声をかける。
が、声をかけられた当人はぴきりと額に青筋を浮かばせる。
「うっせーこんのウサギリス!!てめーだけ飛んでんじゃね〜よコラ!!」
「何怒ってんのや〜ιそないな事言われても、うちが下歩いたらはぐれてしまうかも知れへんで?」
いきなり怒鳴り散らされ、もうパターンをつかんでいても呆れ顔だ。
前を行くアルテマは、リトラの気持ちもよく分かったが。
(あたしも、小さい頃リトラみたいな目にあったしね・・)
ぎゃあぎゃあとわめき散らしながら、草原を進む1人と一匹に苦笑する者が1人。
そんな彼らを、おとなしい草原性の魔物は呆れながら見ていたという。

―フォッケル山ふもとの森―
主に広葉樹によって構成され、木漏れ日がまぶしい森。
見通しがよく、初夏の日差しがまぶしい。尤も、ここは緯度の関係でそう暑くはないが。
アルテマによれば、今このあたりはもっとも過ごしやすい気候だという。
「この辺りはさ、年中そう暑くなんないんだ。でも……その代わり冬が寒いんだよね〜。」
そう愚痴るアルテマ。実際、初夏で一般の春程度の気温ならばそうもなるだろう。
歩いて3日ほどの位置にあるホブス山には、氷河まであるような場所だ。
むしろ、この程度で済んでいるのが奇跡かもしれない。
もしかしたら、熱い砂漠が近くにあるせいかもしれないなどと、考えてみる。
実際は、標高が低いせいかも知れないが。
「ふ〜ん。俺ん所は高山気候ってやつで、やっぱり夏は涼しいぜ。
隣の国の土地が低いところに行くとあちーけど。」
「へ〜、なんか似てるじゃん!」
思わぬところで共通点を見つけたのがうれしいのか、アルテマは楽しそうだ。
言い出したリトラの方も結構まんざらでもなさそうだ。
「ところでよ、お前蛇好き?」
いきなり話を変えて、少々アルテマは返事にまごついた。
「へ?好きじゃないけど、平気だよ。それが?」
それがどうしたのか。と、言わんばかりに眉をひそめる。
首を傾げる彼女に、何故か人差し指を立ててリトラが口を開く。
「いや、騒がれたらやだから。」
「ふ〜ん。あたしが蛇でパニくるように見えるわけ?」
少しむっとしたように両手を腰に当てるが、目は怒っていない。
大人に言わせれば、少し小生意気な声だ。
「ん〜、全然。でも1/100の確立って事もあるから、一応聞いてみたんだよ。」
「そういわれると、かえってむかつくんだけどな・・。」
リトラに悪気はない。だが、アルテマの微妙な少女心を刺激するには十分だ。
短気な気性のため、すぐに湧き上がる怒りを抑える事は難しい。
だが、何とか拳を固める程度に抑える。
「?」
リトラがきょとんとした目で彼女を見る。
その脇にやってきたリュフタは、リトラの肩に前足をぽんと乗せる。
「リトラはん……女の子っちゅうのは些細な事でも気にするもんやで・・。
よう覚えとき。」
鈍さにあきれ果てた様子で、深いため息をつく。
「そんなもんなのか〜?」
「そうや。」
どうも分かっていないようだが、リュフタはそれ以上説明する気にはなれなかった。
妙な疲労感と脱力感を覚え、いつもよりずっと低く飛び始める。
「リュフタ、あんたも苦労するよね〜」
「分かってるやないか、アルテマちゃん。そう、うちは苦労するんやで〜。」
先程とは違い、少しおどけたように言ってみせる。
リトラに対するあてつけなのか、単なる憂さ晴らしかは本人のみぞ知る。
「……おい、穴はどこなんだよ?」
「え〜っと確か、あの大木の右の折れた枝が向いてる方のずっと奥らしいけど。」
アルテマが、地図につけた印と周りの地形を見比べる。
目の前にある大木は、ここから見て右の大きな枝が折れている。
焦げているのを見ると、落雷か何かによるもののようだ。
だが、アルテマによれば
「これね、前に村の暗黒騎士見習いが暗黒で折っちゃったんだって。」
だ、そうだが。
「ふ〜ん。その折った奴、今はどうしてるんだ?」
「今?立派な暗黒騎士になって、バロンにはるばる仕官しにいったよ。
今じゃ、エリートの暗黒騎士団でしょ?」
国王が変わったとはいえ、依然、暗黒騎士団は竜騎士団・飛空艇団と並んで地位が高い。
騎士としての位に限れば、暗黒騎士は近衛兵と同じくらいの格にある。
最も、非常になり手が少ないのだが。
「へ〜、エリートね・・。」
「そう。それに引きかえ、あたしが目指してる魔法剣士は冴えないよ。
普通の国じゃ仕官してもいい位にはつけないし、なり手が本とに少ないから知名度は低いし・・。」
確かに、暗黒騎士に比べたらかなり不利だろう。
だが、それなら何故彼女は志しているのだろうか。
「じゃあ、何でお前なりたがってるんだ?て、いうかまだなってないのかよ・・」
「そ、それは言い忘れてただけ!
あたしがそれでもなりたい訳は、めったになり手が居ないから。
魔法剣は、剣も魔法も両方出来なきゃいけないからすっごく大変!
どっちかでも才能ないと、それだけでもう修行させてくれないんだから!!」
魔法剣士に限らず、暗黒騎士やパラディンの修行も厳しい。
特にパラディンの場合、彼女の村に限って言えば100年もなり手が居ないのだ。
今のバロン王セシルがパラディンになるまで、
この3つの職業は、天性の素質を努力でいかに磨くかが問題である。
故に、才能ない者がいくら努力をしても途中で挫折するほかない。
「ずいぶん厳しいんやな〜。アルテマちゃん、大変やったろ〜」
「そりゃもう!だって、あたしもう朝から晩まで――。」
アルテマが言いかけた、その時だった。
“何者ですか・・我らの巣のそばで騒ぐのは……”
「わぁ!!」
「ひゃあ!!」
「ぎゃ!!」
突如響く謎の声。男性のものと思われる低い声の主の姿は、まだどこにもない。
アルテマがあわてて地図を見る。どうやら、もう噂の蛇の巣に来てしまったようだ。
と、言う事はこの声の主が大蛇という事になるが。



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FF4をプレイ済みの方は文中を読んで「?」となるであろう矛盾を修正しました。
本文中で解説を加えたとも言いますが。
アルテマの村は辺境なので、地域外の情報はなかなか入りにくいのでしょう。